福岡高等裁判所 昭和34年(ラ)210号 決定 1960年1月18日
抗告人 藤竹修一郎
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
本件抗告理由の要旨は、抗告人は昭和三四年一〇月二六日の本件競売期日における本件不動産の競売において最高価競買人と定められたものであるが、原裁判所は右競売期日の公告には最低競売価額の記載に瑕疵ありとして本件競落不許可の決定をなした。抗告人は原裁判所のなした適法な競売期日の公告により競売物件を調査し、右競売期日において記録を閲覧して鑑定人の鑑定価額によつて定められた最低競売価額をもつて競買の申出をなしたもので、右価額は相当であるにかかわらず、原裁判所は本件競売不動産の価額の鑑定をした鑑定人と連絡して右鑑定評価額は解家とする価額である旨の上申書を提出させ、もつて前叙理由により本件競落不許可の裁判をしたものである。しかし、かような事由により瑕疵ありとして競落不許可の裁判をなすは社会的大問題であつて原決定に対しては絶対に承服し得ないところである。よつて原決定を取消し、更に相当の裁判を求める、というのである。
本件記録によると、原裁判所は本件競売不動産五筆の宅地及び建物について鑑定人奥田松次郎に対しこれが評価を命じたところ、同鑑定人は右五筆の不動産のうち本件競落不動産である熊本市蔚山町二五番の二家屋番号同町第三四番木造瓦葺二階建店舗一棟建坪二〇坪二合一勺外二階一二坪六合九勺を金三四六、〇〇〇円、同所同番地木造瓦葺平家建住家一棟建坪二二坪八合を金八二、一〇〇円と各評価したので、同裁判所は右評価額をもつて最低競売価額と定め、他の三筆の不動産と共に昭和三四年一〇月三日なした第一回競売及び競落期日の公告に右最低競売価額を掲げて競売を実施した。そして右公告に基いてなされた同年一〇月二六日午前一〇時の競売期日において抗告人は本件二筆の不動産に対し右各最低競売価額をもつて競買の申出をなし最高価競買人と定められたものであることが認められる。
しかしながら、同年一〇月二九日付の鑑定人奥田松次郎の上申書によると、同人のなした前記鑑定は本件二筆の不動産の評価額に加算もれがあり、前記二階建店舗の価額は金三九一、〇〇〇円、平家建住家の価額は金二九七、〇〇〇円と各修正すべきものであることが明らかである。
さすれば本件競売は右二筆の不動産について不当に低廉な価額を最低競売価額と定めて実施したものであつて、前記競売期日の公告における最低競売価額の記載の瑕疵は債務者に対し不当に不利益な結果を招来することが明らかであるから、本件競落は許すべからざるものである。
よつて原決定は相当であつて、本件抗告は理由がないから、抗告費用の負担については民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり決定する。
(裁判官 竹下利之右衛門 小西信三 岩永金次郎)